その時
ぼくには帰ることが許されていた
休むことが許されていた
そこは冬ともなれば屋根が隠れるほどの雪に埋もれるところだった
ぼくは いま そこにあるぼくを待つ小さなけれど暖かい保護に向かっていた
そこでは凍付く寒さの中でも ぼくは約束されていた
そこは女が持つあのよどんだ温(ぬくもり)でぼくを包むかもしれない
そこでは安堵(やすらぎ)と虚脱がぼくを癒すかもしれない
ぼくはそのあまりの歓待に戸惑うかもしれない
けれど それはそんなぼくにはおかまいなしにぼくをもて遊ぶだろう
ぼくは考えなければならないような気がした
そこがほんとうにぼくの帰るべきところかを
じじつ そこは居心地のよいことは確だった
そして 居心地のよさがぼくの思考を鈍らせることも確だった
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