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告げる |
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1967年(大学学友会誌に投稿)小波 淳(ペンネーム) |
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―L子への手紙T―
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きみと喫茶店で別れてから幾日経つだろう
きみと顔を合せていえなかったことを
この手紙でつたえよう
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人は虚偽から逃がれうるだろうか
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わたしがきみにこう書いているときにも
虚と偽の意識がわたしの脳裏をかすめる
純粋に生きてみたいといったきみ
無下に それはできないと答えたわたし
しかし わたしもそうしてみたい
友とかたるのがこわいといったきみ
わたしはそんなきみがかわいらしくて仕方ない
しかし わたしはきみのどこに位置しているのか
わたしたちを包含している 一見澄んだ
だが その中に刃を忍ばす空間は
わたしたちにとって不要でもあり必要でもあるのだ
数学ノテストデカンニングヲシテシマッタ男
愛シモシナカッタ女ニ孕マセテシマッタ男
ベトナムへ送ラレタ銃ヲ作ッテシマッタ工員
人ヲ危メタト名ノリ出タヤクザ
銭湯ハキタナラシイトイイツツ通ウインテリ
サルトルヲ読ミアサルプチブル
コノ子ラニ愛ノ手ヲト街頭二立ツ女子大生
・・・・・・・・・・・・・・
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これらはいったい何なのだ
そこには何があるのだ
すべてわたしたちを包含している空間
その分子の群れがわたしたちにへばりついている
たった一言のことばをはいたからといって逃げることはできない
穢らしい銭湯だからこそ入らなければならない
雑菌の浮遊する浴槽に身を沈め
傷ついた身体を癒す幾多の裸体を探さなければならない
そうだ探すのだ 待ってはならない
たとえ それが 梅毒患者であり 近づけば 屈辱に
身を引こうとも触れなければならない
その傷に
そのようなときにはじめて
きみがはいたことばのほんとうの意味を知りうるのだ
そうだ わたしにはそうとしかいえない
きみにだからこそいえるのかもしれない
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では 他人の垢と油にまみれ
まみれることの意味を知ったきみと会えるのを
たのしみにしている
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―L子からの手紙よりその一部―
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あなたはわたしに何を求めているの?
こうわたしが聞いたなら何も求めてなんかいないよ
そんなはずはないとあなたは答えるでしょうね
わたしにはそのような会話をしている
場面が想像できます
その後でたぶん長い沈黙が続くでしょうね
その冷たい時の流れにわたしは耐えられそうもないわ
わたしはたんに軽い意味であのことばを使ったのに
あなたは大袈裟にとってしまったのね
でも やっぱりあなたは求めているわ
このわたしにあなたのいうことはわかります
でも何故なの
何故今のわたしではいけないの
わたしにはわからない
こんなわたしをあなたは軽蔑なさるかしら
でも仕方ないわ
あなたはわたしから去るかもしれない
でもその前に
わたしが去らなければならなくなりそう
もしこのまま続くなら・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
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―L子への手紙U― |
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L子よ
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やはりきみはかわいい存在だ
あの手紙はきみにあてたと同時に
わたし自身への手紙であった
きみのいじらしいまじめな(本当はこのようなありきたりの
表現ではないのだが ものを書くことに携はってきたこの
わたしも今は他のことばに表せそうもない)
問に
わたしはもはや答えられぬ
きみに手紙を書くことによって
わたしはわたし自身を試したのだ
しかし
わたしはわたし自身に勝てなかった
他人は笑えないが君は笑うべきだ
このようなわたしを
そして真に笑うべきものは
わたしの内にいるわたし自身なのだ
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